いつ決める?何を決める?
| 順番 | 事業戦略の後。他の機能別戦略(マーケ・営業・製造)の施策が決まると「誰が・どんなスキルで実行するのか」という人の要件が定まるため、他機能とすり合わせながら決めます。 |
|---|---|
| タイミング | 毎期、育成計画と評価項目を更新。面談は月1回〜四半期に1回。評価・処遇の改定は年1回 |
| 決めること | ①求める人材像 ②採用の方法 ③育成計画(スキルマップ) ④評価・処遇(戦略との連動) ⑤定着の仕組み |
| KPIの例 | 定着率(1年後在籍)、スキルマップ充足率、面談実施率、社長しかできない業務の数 |
進め方:5つの作業
H-1
「求める人材像」を戦略から定義する
「いい人が欲しい」では採用も育成もできません。差別化の軸→必要な行動→求める人物の順で具体化します。
| 差別化の軸 | 必要な行動 | 求める人材像 |
|---|---|---|
| 図面段階からのVE提案 | 顧客図面の意図を読み取り、加工しやすい改善案を提案する | 図面が読めて、顧客と対話できる技術者(営業経験より重要) |
| ミクロン精度の品質 | 手順を正確に守り、異常に気づいたら即座に報告・記録する | 丁寧さと正直さ。スピードより正確さを優先できる人 |
H-2
採用:小さな会社の戦い方
- 紹介(リファラル)が最強:社員や取引先からの紹介は定着率が段違い。「紹介してくれたら◯◯」の仕組みを作る
- 求人票に戦略を書く:仕事内容と時給だけの求人票は埋もれる。「装置や医療機器の開発を、ミクロン精度の加工で支える仕事です」と何のための仕事かを書くと、人材像に合う人が来る
- 職場体験で相互確認:採用前に職場見学・体験勤務を挟むと、ミスマッチ退職が大きく減る
- 給与は地域相場+α:相場ちょうどでは応募が来ない時代。評価制度(H-4)とセットで「上がる道筋」を見せる
H-3
育成:スキルマップで「見て覚えろ」をやめる
縦にスタッフ名、横に業務(店舗業ならレジ・接客・仕込み、製造業なら段取り・加工・測定・検査…)を並べた表を作り、◎(教えられる)/○(できる)/△(習い中)/空欄(未着手)で埋めます。これだけで3つのことが起きます。
- 属人化が見える:「◎が社長にしかない業務」=事業のリスクが一覧になる → 計画的に技能移転する
- 育成が計画になる:「今期は若手2名の段取り業務を△→○に」と目標が具体化する
- 多能工化が進む:1人が複数業務をできると、シフトの柔軟性と急な欠員への耐性が上がる
H-3'
知識だけでなく「判断」を残す —— 組織OSの発想
スキルマップと手順書は「作業」を継承します。しかし本当に失われて困るのは、ベテランの「判断」——この案件は受けるべきか、この異常は止めるべきか、この客にどこまで譲るか——のほうです。
- 判断の場面を書き出す:「見積り」「与信」「不良の判定」「値引きの可否」など、経験がものを言う判断を10個ほど挙げる
- 判断ログを取る:ベテランが判断したとき、結論だけでなく「なぜそう決めたか」を1〜2行で記録する。これが最も価値のある資産になる
- 基準に育てる:ログが溜まったら共通点を抜き出し、「この条件なら◯◯する」という基準に整理する
- 使える場所に置く:チェックリストや教育資料に落とす。判断基準が揃うと、若手が自分で決められる範囲が広がる
始め方:全社を一度にやろうとすると必ず頓挫します。属人化が最も痛い業務を1つだけ選び、3か月だけ判断ログを取ってみてください。それだけで「なんとなく決めていたこと」が言葉になり、教育と権限委譲が一気に進みます。→ 全体像は横断戦略(ナレッジマネジメント)へ
H-4
評価・処遇:戦略上の行動を評価項目に入れる
- 評価項目は戦略から:差別化の源泉が技術提案なら「VE提案の件数」を、接客なら「常連客の名前と好みを覚える」を評価項目に入れ、給与・賞与に反映する。評価されない行動は続かない
- 項目は5個まで:小さな会社の評価制度は精緻さより納得感。誰が見ても判定できる項目を少数に絞る
- 面談とセットで:評価は紙ではなく会話で伝える。「何ができたら給与が上がるか」を本人が言える状態がゴール
H-5
定着:辞めない職場は仕組みで作る
- 初日の設計:初日に「事業ドメインの一文・ペルソナ・この仕事の意味」を説明し、教育係を1人決める。放置が早期退職の最大原因
- 月1回の短い面談:15分でいい。「困っていることは?」を聞く場が定期的にあるだけで、不満が退職に育つ前に拾える
- 感謝を言葉にする:戦略的行動(顧客対応・改善提案)をその場で名指しでほめる。無料で最も効く定着施策
記入サンプル:ミナト精工の人事戦略
ミナト精工の例(従業員180名:うち製造120名・技能者の平均年齢52歳)
- 人材像:技術営業は「図面が読めて対話できる人」、製造は「精度に誠実な人」と定義し、採用・配置・評価をこれに揃える
- スキルマップ:製造120名×主要30工程で作成。「◎(教えられる)が1人しかいない工程」が9つと判明 → 年3工程ずつ複数名化する承継計画に
- 技能承継:熟練者の段取り・測定を動画マニュアル化し、若手とのペア作業(OJT)とセットで運用
- 採用:高専・工業高校との連携と職場見学会(年4回)。採用サイトに戦略(試作から量産までを支える仕事)を明記し、技能職を年5名採用
- 評価:技能等級(スキルマップ連動)に加え、改善提案・VE貢献を評価項目に追加して賞与に反映
- KPI:重要工程の複数名対応化 60%→80%/技能職採用 年5名/入社3年以内の離職率 15%→8%
よくある失敗と対策
人事でつまずくパターン
- 「人が採れない」と嘆くだけで、求人票が仕事内容と給与の羅列のまま
- 求人票に「何のための仕事か(戦略)」を書く。紹介の仕組みを作る。採用は募集ではなく設計の問題。
- 評価が社長の気分・好き嫌いに見えてしまい、不満の温床になる
- 評価項目を5個に明文化し、面談で本人と確認する。「何をすれば上がるか」が言えれば納得感は生まれる。
- 教育が「見て覚えろ」で、できる人とできない人の差が開く
- スキルマップと手順書(生産戦略P-2)をセットで整備し、「誰が・何を・いつまでに」の育成計画にする。
- 社長にしかできない仕事が増え続け、社長が休めない
- 「社長のみ◎」の業務数をKPIにして毎期減らす。技能移転は忙しさに関係なく週次の枠で強制的に進める。
人事戦略チェックリスト
- 求める人材像が「差別化の軸→必要な行動」から定義されている
- 求人票に「何のための仕事か」が書かれている
- スキルマップがあり、属人化業務(社長のみ◎)が見えている
- 評価項目(5個まで)が戦略上の行動と連動している
- 評価が処遇(給与・賞与)と面談につながっている
- 新人の初日設計と月1面談の仕組みがある