このステップのゴール
所要期間の目安は1〜2週間。ここからは部門長・現場リーダーを巻き込んで作ります。自分で決めた施策は実行される、与えられた施策は実行されない——これが実行力の分かれ目です。
📋 アウトプット:機能別アクションプラン(A4で1枚)
全部門の施策を1枚に集約した表。フォーマットは以下のとおりで、1機能につき施策は3つまでが絶対ルールです。
| 機能 | 施策(3つまで) | 担当 | 期限 | KPI(物差し) | 現状値→目標値 |
|---|---|---|---|---|---|
| マーケティング | 個人名 | 年月 | |||
| 営業・販売 | |||||
| 製造・オペレーション | |||||
| 人事 | |||||
| 財務 | |||||
| IT |
進め方:4つの作業
4-1
事業戦略から「各機能への要求」を書き出す
いきなり施策を考えず、まず「事業戦略を実現するために、各機能は何を実現しなければならないか(要求)」を書き出します。この一段を挟むことで、施策が「思いつきのやりたいことリスト」になるのを防げます。
| 事業戦略の要素(ステップ3) | → 機能への要求(例) |
|---|---|
| 差別化の軸「図面段階からのVE提案」 | 人事:技術提案できる営業の育成/IT:過去の加工実績・見積りを検索できるデータベース |
| ターゲット「装置メーカーの開発部門」 | マーケティング:その層に届く媒体(技術サイト・展示会)での発信 |
| 「価格勝負はしない」 | 製造:品質の安定と段取り短縮でコストを守る/営業:単価でなく「総コスト」で語る提案書の型 |
| 産業機械売上を3年で1.6倍(ステップ2) | 営業:新規開拓専任の体制/財務:設備投資と売掛金増加に耐える資金計画 |
4-2
要求ごとに施策を出し、「3つまで」に絞る
要求に対する施策のアイデアを出したら、次の2軸で優先順位をつけて絞ります。
- 効果:事業戦略の物差し(ステップ3の⑤)をどれだけ動かすか
- 実行しやすさ:今の人手・資金・スキルで3か月以内に着手できるか
「効果大×実行しやすい」から採用し、1機能3つを超えたら、何かを来期送りにします。施策を絞る痛みを引き受けるのがこのステップの仕事です。10個の施策を薄くやるより、3個を確実にやり切るほうが成果は出ます。
4-3
施策ごとにKPI(物差し)を決める
KPIは「施策がうまくいっているかを毎月確認できる数字」です。良いKPIの条件は3つあります。
| 条件 | 説明 | 悪い例 → 良い例 |
|---|---|---|
| 担当者が動かせる | 担当者の行動で直接変わる数字にする。売上は多くの要因の結果であり、担当者だけでは動かせない | 「売上を上げる」→「新規訪問件数」「Web問い合わせ件数」 |
| 簡単に測れる | 集計に手間がかかるKPIは続かない。今あるデータ・簡単なカウントで取れるものにする | 「顧客満足度スコア」→「納期遵守率」「クレーム件数」 |
| 先行指標である | 結果(売上)より先に動く数字を選ぶと、手遅れになる前に軌道修正できる | 「月商」→「見積り提出件数」(提出が増えれば数か月後の受注が増える) |
4-4
部門間の整合性をチェックする
最後に、全機能の施策を1枚に並べて「矛盾」と「詰まり」を確認します。これをやらないと、現場で施策同士が衝突します。
- 戦略との矛盾はないか:差別化戦略なのに、製造の施策が「コスト最優先」になっていないか
- 負荷の詰まりはないか:特定の人(たいてい社長)に施策の担当が集中していないか。1人あたり担当施策は3つまでが目安
- 順番の依存はないか:「展示会で新サービスを訴求(マーケ)」は「そのサービスの提供体制づくり(製造)」が先に終わらないと始まらない、といった依存関係に期限の矛盾がないか
- カネの裏付けはあるか:施策に必要な投資の合計が、財務戦略(資金計画)に織り込まれているか
記入サンプル:ミナト精工の機能別アクションプラン
機能別アクションプラン(今期・記入例)
| 機能 | 施策 | 担当 | 期限 | KPI:現状→目標 |
|---|---|---|---|---|
| マーケティング | 加工事例を発信する技術サイトを開設し、事例記事を月2本掲載 | 営業企画・佐々木 | 6月公開 | Web問い合わせ:0→月10件(年度末) |
| 機械要素技術展(10月)に出展し、試作5日納期サービスを訴求 | 営業企画・佐々木 | 10月 | 名刺獲得300件/商談化30件 | |
| 営業 | 技術営業チーム3名を編成し、新規口座開拓に専念させる | 営業部長・川口 | 4月編成 | 新規口座:年10件 |
| 既存顧客へのVE提案を「四半期1件/主要口座」で標準活動化 | 営業部長・川口 | 7月開始 | VE提案:年40件/採用率25% | |
| 製造 | 段取りの外段取り化・治具標準化で段取り時間を短縮 | 製造部長・大野 | 9月末 | 平均段取り時間:45分→30分 |
| 試作専用の機械枠を週3日確保し「試作5日納期」を実現 | 製造課長・西村 | 8月開始 | 試作納期遵守率:98% | |
| 人事 | 熟練技能の動画マニュアル化と技能マップの運用開始 | 総務部長・林 | 通年 | 重要工程の「複数名対応化」:60%→80% |
| 高専・工業高校との連携採用と職場見学会(年4回) | 総務部長・林 | 通年 | 技能職採用:年5名 | |
| 財務 | 5軸加工機(1.2億円)の投資を回収計算のうえ稟議・実行 | 経理部長・岡本+顧問税理士 | 7月稟議 | 回収期間4年以内を確認/補助金活用 |
| 売掛金増加に備え当座貸越枠2億円を主力行と設定 | 経理部長・岡本 | 8月末 | 現預金:月商2か月分(5億円)を維持 | |
| IT | 生産管理システム刷新(紙日報→バーコードによる実績収集) | 情報システム・青木 | 来年3月稼働 | 日報転記工数:月80時間→0 |
整合性チェックの結果:当初、製造部長・大野の担当施策が4つあったため、治具標準化を現場リーダーに移管。また「展示会出展(10月)」で訴求する試作サービスは「試作枠の確保(8月)」が先に完了するよう期限を調整した。すべての施策が「開発パートナーとしての差別化」と「高粗利分野へのシフト」のどちらかに直結していることを最終確認して完成。
よくある失敗と対策
ステップ4でつまずくパターン
- 施策が10個も20個も並び、結局どれも中途半端になる
- 「1機能3つまで」を機械的に守る。落とした施策は「来期候補リスト」に取っておけば捨てる痛みが減る。
- 担当が「全員」「店舗」など、誰の仕事か曖昧
- 担当は必ず個人名にする。「全員の仕事」は「誰の仕事でもない」と同じ。
- KPIが全部「売上」になっている
- 売上は結果指標。担当者の行動で動く先行指標(訪問件数、登録者数、ロス率)に置き換える。
- 社長が全施策の担当者になっている
- 1人3施策までのルールで強制的に分散する。任せられないのは施策が大きすぎるサイン——動作レベルまで分解する。
- 投資が必要な施策に資金の裏付けがない
- 施策一覧の投資額を合計し、財務の施策(資金計画)と突き合わせる工程を必ず入れる。
ステップ4完了チェックリスト
- 各機能の施策が「事業戦略への要求」から導かれている(思いつきでない)
- 施策は1機能につき3つ以内に絞った
- すべての施策に個人名の担当と期限がある
- KPIは担当者が動かせる先行指標になっている
- 現状値と目標値が数字で入っている
- 特定の人に担当が集中していない(1人3つまで)
- 施策間の順番の依存と、投資の資金裏付けを確認した
- 担当者本人が施策づくりに参加した(押し付けていない)