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STEP 1 / 5

現状を棚卸しする(3C・SWOT)

戦略づくりの土台は「事実」です。感覚や思い込みではなく、数字とお客様の声から自社の現在地を正確につかむ——このステップの出来が、あとの4ステップすべての質を決めます。

このステップのゴール

作業を終えたときに、次の2つのアウトプットが手元にある状態を目指します。 所要期間の目安は2〜4週間(データ収集に時間がかかるため、他のステップより長めです)。

📋 アウトプット1:3C分析シート

顧客・競合・自社について「わかった事実」を1枚に整理したもの。A4で1枚、多くても2枚に収めます。

📋 アウトプット2:クロスSWOT表

強み・弱み・機会・脅威を掛け合わせ、「戦略の打ち手候補」を書き出したもの。ステップ2・3の材料になります。

※ PEST・ファイブフォース・VRIO・バリューチェーンまで踏み込む場合は 環境分析 を参照してください。

進め方:4つの作業

1-1

まず「事実」を集める(1〜2週間)

分析の前に材料集めです。以下は多くの中小企業がすでに持っているのに使っていないデータです。完璧を目指さず、取れるものから集めます。

集めるものどこから取るか見るポイント
商品・サービス別の売上と粗利
(できれば過去3年分)
会計ソフト、レジデータ、請求書控え。なければ顧問税理士に依頼 「売上は大きいが粗利が薄い商品」「小さいが利益率の高い商品」を見分ける
顧客別の売上 請求データ、販売管理ソフト、ポイントカード 上位20%の顧客が売上の何%を占めるか。特定顧客への依存度
お客様の声 常連客5〜10人への直接ヒアリング、Googleマップの口コミ、アンケート 「なぜうちを選んでいるのか」「何が不満か」。強みは社内でなく顧客が知っている
競合の情報 競合の観察(店舗業なら現地、BtoBなら展示会・Webサイト・カタログ)、求人票 価格帯、品揃え、接客、強そうな点・手薄な点。求人票からは給与水準や人手不足度がわかる
外部環境の変化 業界紙、商工会議所の景況調査、市区町村の人口統計(自治体HPで無料) 商圏人口の増減、法改正、原価高騰、消費トレンドなど「自社の努力と無関係に起きる変化」
コツ:顧客ヒアリングは「うちの良いところは?」と聞くと社交辞令が返ってきます。「他にも選択肢がある中で、なぜ最初にうちに頼もうと思ったのですか?」「もしうちが無くなったら、どこに頼みますか?」と聞くと本音が出ます。BtoBなら、発注担当者だけでなく実際に使う現場の声も聞けると精度が上がります。
1-2

3C分析:集めた事実を3つの箱に整理する

集めた事実を「顧客(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」の3つに仕分けます。必ず「顧客→競合→自社」の順番で書くのがポイントです。理由は2つあります。

最後に「顧客が求め、競合ができていないことに対して、自社は何ができるか」を確認する——この外から内への流れが、事実に基づいた分析への近道です。

3C答えるべき問い記入欄
顧客
Customer
・実際に買っているのは誰か(年齢・地域・利用シーン)
・お客様は何に困り、何を求めてお金を払っているか
・客数・客単価は増えているか減っているか
(事実を箇条書き)
競合
Competitor
・直接競合は誰か(同業)/間接競合は誰か(代替手段)
・競合の強み・弱みは何か
・競合が「やっていないこと・できないこと」は何か
(事実を箇条書き)
自社
Company
・顧客がうちを選ぶ理由(=ヒアリング結果)は何か
・数字で見た稼ぎ頭・お荷物はどれか
・設備・技術・人・立地などの経営資源はどうか
(事実を箇条書き)

▲ 3C分析ワークシート。「意見」ではなく「事実」を書くのがルールです。

「間接競合」を忘れずに:競合は同業者だけではありません。部品加工業なら、顧客の内製化・海外調達・3Dプリンタによる試作の代替も競合です。「お客様はうちに頼まなかったら、どこで(どうやって)済ませるか?」で考えると間接競合が見えます。
1-3

SWOT分析:内と外・プラスとマイナスに仕分ける

3Cで整理した事実を、今度は4象限に仕分けます。混同しやすいのは「内部か外部か」の区別です。自社の努力で変えられるものが内部(強み・弱み)、変えられないものが外部(機会・脅威)と覚えてください。

SWOTは「最初」ではなく「統合」に使う:ここまで来て初めてSWOTを書くことに意味があります。何も分析せずにSWOTを埋めると、並ぶのは事実ではなくその場にいた人の印象だからです。
余力があれば、外部をPEST分析(政治・経済・社会・技術)とファイブフォース分析(業界の5つの圧力)で、内部をVRIO分析(強みの検証)とバリューチェーン分析(価値が生まれる工程)で深掘りしてからSWOTに集約すると、精度が一段上がります。→ 環境分析の詳しい手法へ
プラス要因マイナス要因
内部環境
(自社で変えられる)
強み Strength
顧客に選ばれている理由、競合より優れている点
※顧客ヒアリングの裏付けがあるものだけ書く
弱み Weakness
競合に劣る点、顧客の不満、社内のボトルネック
外部環境
(自社では変えられない)
機会 Opportunity
追い風になる市場・社会の変化
脅威 Threat
向かい風になる市場・社会の変化
1-4

クロスSWOT:掛け合わせて「打ち手の候補」を出す

SWOTは仕分けただけでは何も生みません。4象限を掛け合わせて打ち手の候補を出すところまでやって、初めて次のステップにつながります。最重要は「強み×機会」です。

掛け合わせ問い打ち手の性格
強み × 機会強みを使って追い風に乗るには?積極攻勢(最優先で検討)
強み × 脅威強みで向かい風の影響を減らすには?差別化による防衛
弱み × 機会チャンスを逃さないために克服すべき弱みは?弱点の段階的改善
弱み × 脅威最悪の組み合わせをどう回避するか?撤退・縮小の検討も含む

記入サンプル:ミナト精工の場合

本サイトでは、架空の中堅メーカー株式会社ミナト精工(精密金属部品の加工業。年商30億円・経常利益9,000万円・従業員180名・創業52年)を共通の事例に、実際の記入イメージを示します。

3C分析シート(記入例)

3Cわかった事実
顧客 ・売上の45%が自動車部品の最大取引先A社。毎年約2%のコストダウン要請が続く
・一方、産業機械・装置メーカーからの「試作からの相談」依頼が3年で1.6倍に増加
・ヒアリングで多かった声:「図面段階から加工性の相談に乗ってくれる」「試作から量産まで窓口が一つで早い」
競合 ・直接競合:同規模の量産加工業者(価格勝負・相見積りの常連)、海外調達(単価は3割安いが納期長い)
・間接競合:顧客の内製化、3Dプリンタによる試作の代替
・競合の多くは「量産専業」で、試作〜量産の一貫対応と技術提案(VE提案)は手薄
自社 ・自動車量産部門:売上60%だが粗利率15%と低い。産業機械部門:売上25%で粗利率32%。医療機器部門:売上5%・粗利率35%で伸びている
・強み:ミクロン級の高精度加工、試作〜量産の一貫対応、技術提案できる営業(ただし12名中3名)
・弱み:技能者の平均年齢52歳で技能が属人化、生産管理が紙とExcel、Webからの新規問い合わせほぼゼロ

クロスSWOT(記入例・抜粋)

掛け合わせ打ち手の候補
強み × 機会
(高精度×一貫対応 × 装置メーカーの試作相談の増加)
産業機械・医療分野の「試作からの取引」を事業の柱として拡大する
強み × 機会
(技術提案力 × Webで加工先を探す調達担当の増加)
加工事例を発信する技術サイトを立ち上げ、新規口座を開拓する
強み × 脅威
(一貫対応 × A社のコストダウン要請・EV化)
価格で追わず「開発パートナー」としての価値でA社内の別部門・新機種を開拓する
弱み × 脅威
(技能の属人化 × 技能者の高齢化)
低採算の汎用量産ロットを縮小し、浮いた工数で技能承継と多品種少量ラインを強化する

この「打ち手の候補」が、ステップ2(全社戦略)で事業の選択と集中を決める材料になります。

よくある失敗と対策

ステップ1でつまずくパターン

強みを社内の思い込みで書いてしまう(「うちは品質が良い」など)
強みは必ず顧客ヒアリングの言葉で裏付ける。顧客が挙げない「強み」は戦略の根拠にしない。
データ集めに凝りすぎて分析が始まらない
期限を2週間と区切り、「今取れるデータだけ」で一度最後まで書き切る。穴は後から埋める。
機会と強みを混同する(「健康志向の高まり」を強みの欄に書く等)
「自社の努力で変えられるか?」で判定する。変えられなければ外部(機会・脅威)。
弱みばかり大量に並べて暗くなる
弱みは「戦略上、克服が必要なもの」だけに絞る。すべての弱みを直す必要はない。
社長ひとりで書いて視点が偏る
現場スタッフ1〜2名を交ぜる。顧客と直に接する人ほど事実を持っている。

ステップ1完了チェックリスト

  • 商品別・顧客別の売上(できれば粗利も)を数字で確認した
  • 常連客5人以上に「選ぶ理由」を直接聞いた
  • 直接競合と間接競合をそれぞれ挙げ、現地・HP等で確認した
  • 3Cシートに「意見」ではなく「事実」が書かれている
  • 強みには顧客の声の裏付けがある
  • クロスSWOTで打ち手の候補が5個以上出ている
  • 社長以外のメンバーが最低1人、作成に関わった
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