このステップのゴール
ステップ1の分析結果を材料に、次の3つを決めます。所要期間の目安は1〜2週間。ここは社長が腹を決めるステップです。
📋 アウトプット1
事業ドメインの一文
「私たちは、誰の・どんな困りごとを・どの強みで解決する会社か」を一文にしたもの。
📋 アウトプット2
事業の役割マップ
各事業を「伸ばす・維持・改善・撤退」に仕分けた表。やめることリストを含む。
📋 アウトプット3
3年後の数値目標
3年後の売上・利益の目安と、成長をどの方向(アンゾフ)で実現するかの優先順位。
進め方:4つの作業
事業ドメインを一文にする
次の穴埋めフォーマットで書きます。ステップ1の「顧客ヒアリングで裏付けられた強み」をそのまま材料にしてください。
良いドメインの条件は3つです。
- 広すぎない:「ものづくりで社会に貢献する」では何も決まらない。打ち手が絞れる程度に具体的に
- 狭すぎない:「◯◯という部品を作る」ではモノ発想で、成長の余地がない。「モノ」でなく「顧客の困りごと」で定義すると将来の展開が入る
- 強みとつながっている:「解決できる根拠(=強み)」が入っていること
| 例 | 評価 |
|---|---|
| 「金属部品を加工・販売する会社」 | ❌ モノ発想。他の加工業者との違いも成長の方向も見えない |
| 「ものづくりで社会に貢献する会社」 | ❌ 広すぎて何も決まらない(何でもアリになる) |
| 「装置・医療機器メーカーの『試作から量産まで』を、ミクロン精度の一貫加工で支える会社」 | ⭕ 誰(装置・医療機器メーカー)・困りごと(試作から量産まで)・強み(ミクロン精度×一貫加工)が入っている |
事業(商品群)を棚卸しして4つに仕分ける
自社の事業や主要な商品群を書き出し、「儲かっているか(現在)」と「伸びそうか(将来)」の2軸で評価します。これは大企業向けのPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)を中小企業向けに簡略化したものです。
| 事業・商品群 | 売上 | 粗利 | 市場の伸び | 強みとの適合 | 仕分け |
|---|---|---|---|---|---|
| (事業A) | 円 | 円・% | ↑→↓ | ◎○△ | 伸ばす/維持/改善/撤退 |
| (事業B) |
▲ 事業棚卸しワークシート。数字はステップ1で集めたものを転記します。
仕分けの基準は次のとおりです。
| 仕分け | 基準 | 資源配分の方針 |
|---|---|---|
| 伸ばす | 儲かっていて、市場も伸びる。強みが活きる | ヒト・カネを最優先で投入する |
| 維持 | 儲かっているが、市場の伸びは期待できない | 効率化しつつ稼いでもらう(稼ぎ頭)。ここの利益を「伸ばす」に回す |
| 改善 | 儲かっていないが、市場は伸びる・強みが活きる | 期限つき(例:1年)でテコ入れ。改善しなければ撤退へ |
| 撤退 | 儲かっておらず、将来性もない | やめる時期と手順を決める |
成長の方向を決める(アンゾフの成長マトリクス)
「伸ばす」と決めた事業について、成長の打ち手を4方向で洗い出し、優先順位をつけます。原則は「既存×既存」から順に検討すること。リスクの低い順に並んでいるからです。
なお、アンゾフのマトリクスは「商品×市場」の組み合わせで考える道具なので、マトリクス自体は事業ごとに作ります(量産事業と試作・多品種少量事業では「既存の顧客・商品」の中身が違うため)。複数事業がある場合は、各事業で出てきた打ち手を1つのリストに集め、どれに優先的にヒト・カネを配分するかを全社として決める——ここが全社戦略の仕事です。
| 方向 | 問い | リスク | 検討順 |
|---|---|---|---|
| 市場浸透(既存客 × 既存商品) | 今のお客様の購入頻度・取引額を上げられないか? | 低 | 1番目 |
| 新市場開拓(新規客 × 既存商品) | 同じ商品を別の地域・客層・チャネルに売れないか? | 中 | 2番目 |
| 新商品開発(既存客 × 新商品) | 今のお客様の別の困りごとを解決できないか? | 中 | 2番目 |
| 多角化(新規客 × 新商品) | —(強みが直接活きる場合のみ検討) | 高 | 原則後回し |
3年後の数値目標を置く
精密な事業計画は不要です。「3年後に売上いくら・利益いくら。その内訳はどの事業がいくら」という粗い見取り図で十分。目的は正確な予測ではなく、資源配分の優先順位を数字で示すことです。
- 売上目標は「現状維持なら3年後いくらか」をまず計算し、そこからの上積みを事業別に割り振る
- 利益目標もセットで置く(売上だけ追うと安売りに流れる)
- 目標は幹部・社員に見せる前提で作る(隠す数字は行動につながらない)
記入サンプル:ミナト精工の場合
事業ドメイン(記入例)
「私たちは、装置・医療機器メーカーの『試作から量産まで』を、ミクロン精度の一貫加工で支える会社です」
→ 「下請けの部品加工業」ではなく「試作から量産までを支えるパートナー」と定義したことで、試作サービスの商品化や技術提案営業への展開が自然につながる。一方、精度が問われない汎用量産の相見積り案件は「ドメインの外」として深追いしない、という判断もできる。
事業の役割マップ(記入例)
| 事業 | 売上構成 | 粗利率 | 市場の伸び | 強み適合 | 仕分けと方針 |
|---|---|---|---|---|---|
| 自動車部品(量産) | 60%(18億円) | 15% | ↓(EV化で主力部品が縮小見込み) | ○ | 維持:稼ぎ頭として効率化し、成長分野への投資原資をつくる。A社の新機種・別部門を開拓し依存を質的に分散 |
| 産業機械部品(多品種少量) | 25%(7.5億円) | 32% | ↑(装置投資が堅調) | ◎(高精度×一貫対応) | 伸ばす:技術営業を強化し、3年で売上構成35%へ |
| 医療機器部品 | 5%(1.5億円) | 35% | ↑ | ◎(認証取得済み) | 伸ばす:試作案件を起点に取引口座を倍増 |
| 汎用量産ロット(低採算案件) | 10%(3億円) | 5%未満 | → | △(海外調達と競合) | 撤退・縮小:価格改定を交渉し、不調なら1年かけて縮小。空いた工数を技能承継と多品種少量ラインへ |
成長の方向と3年後の目標(記入例)
| 優先 | 方向 | 打ち手 | 3年後の効果(目安) |
|---|---|---|---|
| 1 | 市場浸透 | 既存顧客の別部門・新機種への技術提案(VE提案)を営業の標準活動にする | 既存口座の取引額 +10% |
| 2 | 新市場開拓 | 加工事例の技術サイト+展示会出展で、装置メーカーの新規口座を年10件開拓 | 産業機械売上 1.6倍 |
| 3 | 新商品開発 | 「試作5日納期サービス」を商品化し、試作からの量産転換を仕組み化 | まず年30件で転換率を検証 |
3年後の数値目標:売上 33億円(現状30億円)、経常利益 1.65億円・利益率5%(現状9,000万円・3%)、最大取引先A社への依存度 45%→35%。低採算ロットの整理と高粗利分野へのシフトで、売上より利益率の改善を優先する計画。
よくある失敗と対策
ステップ2でつまずくパターン
- 「全部の事業をがんばる」と言って仕分けから逃げる
- 資源配分に差をつけない戦略は戦略ではない。最低でも「最優先の1事業」と「やめる・縮小する1つ」を決める。
- 思い入れのある赤字事業の撤退を先送りする
- 撤退基準(例:2期連続赤字)を先に決めて機械的に判定する。「撤退で浮く資源の使い道」をセットで示すと決断しやすい。
- ドメインをかっこいい標語にしてしまい、判断に使えない
- 「この新しい話はドメインの内か外か?」と実際の案件で試す。判定できない一文なら書き直す。
- いきなり多角化(新規客×新商品)に飛びつく
- まず市場浸透(既存深掘り)で足元を固める。多角化は「既存の強みがそのまま武器になるか」を必ず確認する。
ステップ2完了チェックリスト
- 事業ドメインが「誰・困りごと・強み」入りの一文になっている
- その一文で「やらないこと」の判定ができる
- 全事業(商品群)を「伸ばす・維持・改善・撤退」に仕分けた
- 撤退・縮小するものが最低1つ決まり、時期も決めた
- 「改善」に仕分けた事業には期限と合格基準がある
- 成長の打ち手がアンゾフの4方向で整理され、優先順位がついている
- 3年後の売上・利益目標を数字で置いた