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STEP 2 / 5

全社戦略 —— 土俵を決める

「うちは何屋か」を一文で定め、注力する事業とやめることを決めます。中小企業の全社戦略の本質は、資源を分散させないための「選択と集中」です。

このステップのゴール

ステップ1の分析結果を材料に、次の3つを決めます。所要期間の目安は1〜2週間。ここは社長が腹を決めるステップです。

📋 アウトプット1
事業ドメインの一文

「私たちは、誰の・どんな困りごとを・どの強みで解決する会社か」を一文にしたもの。

📋 アウトプット2
事業の役割マップ

各事業を「伸ばす・維持・改善・撤退」に仕分けた表。やめることリストを含む。

📋 アウトプット3
3年後の数値目標

3年後の売上・利益の目安と、成長をどの方向(アンゾフ)で実現するかの優先順位。

進め方:4つの作業

2-1

事業ドメインを一文にする

次の穴埋めフォーマットで書きます。ステップ1の「顧客ヒアリングで裏付けられた強み」をそのまま材料にしてください。

フォーマット:「私たちは、(誰)(どんな困りごと・願い)を、(どの強み)で解決する会社です」

良いドメインの条件は3つです。

評価
「金属部品を加工・販売する会社」❌ モノ発想。他の加工業者との違いも成長の方向も見えない
「ものづくりで社会に貢献する会社」❌ 広すぎて何も決まらない(何でもアリになる)
「装置・医療機器メーカーの『試作から量産まで』を、ミクロン精度の一貫加工で支える会社」⭕ 誰(装置・医療機器メーカー)・困りごと(試作から量産まで)・強み(ミクロン精度×一貫加工)が入っている
複数の事業がある場合 —— ドメインは2階層で考える:ドメインには、会社全体として「何屋か」を定める企業ドメインと、各事業の「誰に・何を・どの強みで」を定める事業ドメインがあります。事業が1つなら両者は実質同じもの。複数事業なら、まず企業ドメイン(全体の傘)をここで定め、各事業のドメインはステップ3で事業ごとに具体化します。傘からはみ出す事業は「そもそもやるべきか」を問い直すサインです。
2-2

事業(商品群)を棚卸しして4つに仕分ける

自社の事業や主要な商品群を書き出し、「儲かっているか(現在)」と「伸びそうか(将来)」の2軸で評価します。これは大企業向けのPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)を中小企業向けに簡略化したものです。

事業・商品群売上粗利市場の伸び強みとの適合仕分け
(事業A)円・%↑→↓◎○△伸ばす/維持/改善/撤退
(事業B)

▲ 事業棚卸しワークシート。数字はステップ1で集めたものを転記します。

仕分けの基準は次のとおりです。

仕分け基準資源配分の方針
伸ばす儲かっていて、市場も伸びる。強みが活きるヒト・カネを最優先で投入する
維持儲かっているが、市場の伸びは期待できない効率化しつつ稼いでもらう(稼ぎ頭)。ここの利益を「伸ばす」に回す
改善儲かっていないが、市場は伸びる・強みが活きる期限つき(例:1年)でテコ入れ。改善しなければ撤退へ
撤退儲かっておらず、将来性もないやめる時期と手順を決める
撤退の決め方:感情ではなく「撤退基準」を先に数字で決めるのがコツです(例:2期連続赤字かつ改善の見込みなし)。また、撤退で浮く資源(人手・時間・資金)を「どこに付け替えるか」までセットで決めると、前向きな意思決定になります。
2-3

成長の方向を決める(アンゾフの成長マトリクス)

「伸ばす」と決めた事業について、成長の打ち手を4方向で洗い出し、優先順位をつけます。原則は「既存×既存」から順に検討すること。リスクの低い順に並んでいるからです。

なお、アンゾフのマトリクスは「商品×市場」の組み合わせで考える道具なので、マトリクス自体は事業ごとに作ります(量産事業と試作・多品種少量事業では「既存の顧客・商品」の中身が違うため)。複数事業がある場合は、各事業で出てきた打ち手を1つのリストに集め、どれに優先的にヒト・カネを配分するかを全社として決める——ここが全社戦略の仕事です。

方向問いリスク検討順
市場浸透(既存客 × 既存商品)今のお客様の購入頻度・取引額を上げられないか?1番目
新市場開拓(新規客 × 既存商品)同じ商品を別の地域・客層・チャネルに売れないか?2番目
新商品開発(既存客 × 新商品)今のお客様の別の困りごとを解決できないか?2番目
多角化(新規客 × 新商品)—(強みが直接活きる場合のみ検討)原則後回し
2-4

3年後の数値目標を置く

精密な事業計画は不要です。「3年後に売上いくら・利益いくら。その内訳はどの事業がいくら」という粗い見取り図で十分。目的は正確な予測ではなく、資源配分の優先順位を数字で示すことです。

記入サンプル:ミナト精工の場合

事業ドメイン(記入例)

「私たちは、装置・医療機器メーカーの『試作から量産まで』を、ミクロン精度の一貫加工で支える会社です」

→ 「下請けの部品加工業」ではなく「試作から量産までを支えるパートナー」と定義したことで、試作サービスの商品化や技術提案営業への展開が自然につながる。一方、精度が問われない汎用量産の相見積り案件は「ドメインの外」として深追いしない、という判断もできる。

事業の役割マップ(記入例)

事業売上構成粗利率市場の伸び強み適合仕分けと方針
自動車部品(量産)60%(18億円)15%↓(EV化で主力部品が縮小見込み)維持:稼ぎ頭として効率化し、成長分野への投資原資をつくる。A社の新機種・別部門を開拓し依存を質的に分散
産業機械部品(多品種少量)25%(7.5億円)32%↑(装置投資が堅調)◎(高精度×一貫対応)伸ばす:技術営業を強化し、3年で売上構成35%へ
医療機器部品5%(1.5億円)35%◎(認証取得済み)伸ばす:試作案件を起点に取引口座を倍増
汎用量産ロット(低採算案件)10%(3億円)5%未満△(海外調達と競合)撤退・縮小:価格改定を交渉し、不調なら1年かけて縮小。空いた工数を技能承継と多品種少量ラインへ

成長の方向と3年後の目標(記入例)

優先方向打ち手3年後の効果(目安)
1市場浸透既存顧客の別部門・新機種への技術提案(VE提案)を営業の標準活動にする既存口座の取引額 +10%
2新市場開拓加工事例の技術サイト+展示会出展で、装置メーカーの新規口座を年10件開拓産業機械売上 1.6倍
3新商品開発「試作5日納期サービス」を商品化し、試作からの量産転換を仕組み化まず年30件で転換率を検証

3年後の数値目標:売上 33億円(現状30億円)、経常利益 1.65億円・利益率5%(現状9,000万円・3%)、最大取引先A社への依存度 45%→35%。低採算ロットの整理と高粗利分野へのシフトで、売上より利益率の改善を優先する計画。

よくある失敗と対策

ステップ2でつまずくパターン

「全部の事業をがんばる」と言って仕分けから逃げる
資源配分に差をつけない戦略は戦略ではない。最低でも「最優先の1事業」と「やめる・縮小する1つ」を決める。
思い入れのある赤字事業の撤退を先送りする
撤退基準(例:2期連続赤字)を先に決めて機械的に判定する。「撤退で浮く資源の使い道」をセットで示すと決断しやすい。
ドメインをかっこいい標語にしてしまい、判断に使えない
「この新しい話はドメインの内か外か?」と実際の案件で試す。判定できない一文なら書き直す。
いきなり多角化(新規客×新商品)に飛びつく
まず市場浸透(既存深掘り)で足元を固める。多角化は「既存の強みがそのまま武器になるか」を必ず確認する。

ステップ2完了チェックリスト

  • 事業ドメインが「誰・困りごと・強み」入りの一文になっている
  • その一文で「やらないこと」の判定ができる
  • 全事業(商品群)を「伸ばす・維持・改善・撤退」に仕分けた
  • 撤退・縮小するものが最低1つ決まり、時期も決めた
  • 「改善」に仕分けた事業には期限と合格基準がある
  • 成長の打ち手がアンゾフの4方向で整理され、優先順位がついている
  • 3年後の売上・利益目標を数字で置いた
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