いつ決める?何を決める?
| 順番 | 現状分析(ステップ1)の後、3階層の最初に決めます。ここが決まらないと事業戦略・機能別戦略は定まりません。 |
|---|---|
| 作るタイミング | 創業・事業承継のときに初版を作成。以後は年1回の戦略見直しで点検し、3〜5年ごと、または環境の激変時(主要取引先の喪失・強力な競合の参入など)に本格的に見直します。 |
| 決めること | ①事業ドメイン(何屋か) ②事業の組み合わせと資源配分(選択と集中・やめること) ③成長の方向(アンゾフ) ④3年後の数値目標 |
| アウトプット | ドメインの一文/事業の役割マップ(伸ばす・維持・改善・撤退)/3年後の売上・利益目標 |
| 決める人 | 社長・経営陣(最終的には社長が腹を決める領域) |
全体の流れの中での位置づけは 戦略づくりロードマップ を参照してください。
考える3つのテーマ
事業ドメインの定義
「うちは何屋か?」を顧客・ニーズ・強みの3つの軸で定義します。「印刷屋」ではなく「地域の店の販促を助ける会社」と定義し直すだけで、打ち手の幅が変わります。
事業の組み合わせ
複数の事業を持つなら、どの事業が稼ぎ頭で、どれが将来の柱かを整理します(PPMの考え方)。「全部がんばる」は資源の分散であり、戦略ではありません。
成長の方向性
アンゾフの成長マトリクスで整理します。「今の客に今の商品をもっと売る」か、「新しい客を開拓する」か、「新しい商品を作る」か。いちばんリスクが低いのは既存×既存の深掘りです。
| アンゾフの成長マトリクス | 既存の商品・サービス | 新しい商品・サービス |
|---|---|---|
| 既存の顧客・市場 | 市場浸透:購入頻度・単価を上げる(まず最優先で検討) | 新商品開発:今のお客様の別の困りごとを解決する |
| 新しい顧客・市場 | 新市場開拓:隣町・別業界・ネット販売へ広げる | 多角化:リスク最大。強みが活きる分野に限る |
全社戦略で使われる主なフレームワーク
中小企業がすべてを使う必要はありません。「いま自社が答えを出したい問い」に対応するものを選んでください。
| 答えたい問い | 使う道具 | 中小企業での使いどころ |
|---|---|---|
| うちは何屋か | 事業ドメイン | 必須。モノでなく顧客価値で定義する |
| どの事業に資源を配分するか | PPM / 事業ポートフォリオ | 複数事業なら必須。簡易版(伸ばす・維持・改善・撤退)で十分 |
| どの方向に成長するか | アンゾフの成長マトリクス | 必須。既存×既存から順に検討する |
| 新分野に出るべきか | 多角化戦略 | 強みが直接活きる「関連多角化」に限定するのが原則 |
| 工程を自社に取り込むべきか | 垂直統合 | 川上(仕入・素材)や川下(施工・保守)への進出。利益率が高い工程を握れるかで判断 |
| 時間を買うべきか | M&A戦略 | 後継者不在の同業を引き継ぐ形が増加。自前で育てるより速いが、統合(PMI)の負荷は重い |
| やめるべきか | 撤退戦略 | 撤退基準を先に数字で決めておく |
※ これらを判断する材料は環境分析から出てきます。→ 環境分析(PEST・ファイブフォース・VRIO・バリューチェーン)
具体例で理解する
例:精密部品メーカー「ミナト精工」(年商30億円・従業員180名)の全社戦略
自社を「金属部品の下請け加工業」ではなく「装置・医療機器メーカーの『試作から量産まで』をミクロン精度の一貫加工で支える会社」と定義し直した。 その結果、①自動車部品の量産(売上60%・稼ぎ頭だがEV化で縮小見込み=維持)、②産業機械部品(25%・高粗利=伸ばす)、③医療機器部品(5%・高成長=伸ばす)に事業を整理。 粗利率5%未満の汎用量産ロット(売上10%)は価格改定を交渉し、不調なら1年で縮小・撤退と決め、空いた工数と資金を成長分野と技能承継に集中させた。 ——「何をやめるか」を決めるのも、立派な全社戦略です。