いつ決める?何を決める?
| 順番 | 他の機能別戦略と並行しつつ、最後に全機能の施策とお金を突き合わせるのが財務の役割です。各施策の投資額の合計が資金計画に収まるかを最終確認します。 |
|---|---|
| タイミング | 安全線・投資基準は年1回見直し。資金繰りと主要数字は毎月必ず確認(月次会議の冒頭15分) |
| 決めること | ①資金繰りの安全線 ②儲けの構造(粗利)の管理基準 ③投資の判断基準 ④借入の方針 ⑤月次で見る数字 |
| KPIの例 | 現預金月商倍率、粗利率、固定費額、売掛金の回収サイト、借入枠の余力 |
進め方:5つの作業
F-1
資金繰りの安全線を数字で決める
- 現預金の下限:「最低でも月商1.5か月分」など、割り込んではいけない残高を明文化する(業種の波が大きいなら2か月分)
- 簡易資金繰り表:月初残高+入金−出金=月末残高、を向こう3か月分。Excel1枚で十分。頭の中の資金繰りを紙に出すことが目的
- 割り込みそうなときの手順:①経費の繰り延べ ②借入枠の実行 ③金融機関へ早めに相談——順番を先に決めておくと慌てない
F-2
儲けの構造を「粗利」で掴む
売上は嘘をつきます。見るべきは粗利(売上−原価)です。
- 商品・事業別の粗利率:ステップ1の棚卸しを毎期更新。「売上は大きいが粗利の薄い商品」が営業・製造の時間を食っていないか
- 損益分岐点の簡易計算:「固定費 ÷ 粗利率 = 損益分岐点売上」。例:固定費6,000万円/月・粗利率30%なら、月商2億円が損益トントン。この数字を社長が即答できる状態が最低ライン
- 値上げの効果を知る:粗利率60%の商品を5%値上げすると、利益への効果は売上5%増よりはるかに大きい。安売りの逆も同じ——価格戦略(事業戦略)と財務はここでつながる
F-3
投資の判断基準を先に決める
| 基準 | 内容 |
|---|---|
| 戦略整合 | 「伸ばす」と決めた事業への投資か。維持事業への大型投資、戦略にない衝動的投資は原則見送り |
| 回収期間 | 投資額÷年間増加利益で3〜5年以内(生産戦略P-4と共通) |
| 上限ルール | 「自己資金だけで払える額」または「月商◯か月分」を単独判断の上限にし、超える案件は税理士・金融機関に相談してから |
| 安全線の維持 | 投資後も現預金が安全線(F-1)を割らないこと。割るなら借入との併用を検討 |
F-4
借入との付き合い方を決める
- 借入は悪ではない:無借金へのこだわりで手元資金が薄いほうが危険。成長投資と安全線の確保のための借入は健全な財務戦略
- 枠は困る前に作る:当座貸越枠や融資は業績が良いときにしか作れない。「使わなくても枠を持つ」が鉄則
- 公的金融を知る:日本政策金融公庫、信用保証協会の保証付融資、自治体の制度融資は中小企業の標準装備。金利・据置の条件が民間より有利なことが多い
- 金融機関とは平時から:年1回は戦略シートと試算表を持って近況報告に行く。「顔の見える会社」は困ったときの対応がまるで違う
F-5
月次で見る数字を5つに絞る
月次会議の冒頭で見る数字を固定します:①現預金残高(対安全線) ②売上 ③粗利率 ④固定費 ⑤売掛金の回収状況。試算表を全ページめくる必要はありません。この5つの増減の理由を言えることが「数字で経営している」状態です。顧問税理士には記帳代行だけでなく、月次の数字についての対話相手になってもらいましょう。
記入サンプル:ミナト精工の財務戦略
ミナト精工の例(年商30億円・経常利益9,000万円)
- 安全線:現預金の下限を「月商2か月分=5億円」に設定。現状1.7か月分のため、低採算ロット整理による利益改善で2年かけて到達する計画
- 粗利管理:事業別粗利で「汎用量産ロットが粗利率5%未満」と判明し、価格改定・縮小の根拠に。損益分岐点は月商約2.1億円と算出し、役員・部長で共有
- 投資基準:単独判断の上限を3,000万円に設定。5軸加工機1.2億円は回収期間4年・補助金・借入併用を役員会と顧問税理士で確認して実行
- 借入:産機・医療の拡大で売掛金(回収サイト約60日)が増えるため、当座貸越枠2億円を主力行と設定。年1回、戦略シートと試算表を持って主力行・準主力行へ近況報告
- 月次:経営会議の冒頭15分で5つの数字(現預金・売上・粗利率・固定費・売掛回収)を確認。部長層にも開示し、「数字は経理だけのもの」をやめた
成長のワナ:卸や法人取引が増えると「掛け売り(後払い)」が増え、黒字なのに現金が減る局面が来ます。売上を伸ばす戦略には、必ず運転資金の手当て(回収サイトの交渉・借入枠)をセットにしてください。
よくある失敗と対策
財務でつまずくパターン
- 売上ばかり見て、粗利と現金を見ていない
- 月次の5つの数字(F-5)を固定し、売上より先に現預金と粗利率を見る習慣にする。
- 資金繰りが社長の頭の中にしかなく、本人も不安が消えない
- 簡易資金繰り表(3か月先まで)を月1回更新し、家族・番頭・税理士と共有する。書き出すだけで打ち手が早くなる。
- 無借金にこだわり、手元資金が薄いまま投資機会も逃す
- 「借入額」ではなく「現預金の厚み」で安全を測る。良いときに枠を作るのが正しい順番。
- どんぶり勘定の投資が後から資金繰りを圧迫する
- 投資4基準(戦略整合・回収期間・上限・安全線)を通す手続きにする。即断したい案件ほど一晩置く。
財務戦略チェックリスト
- 現預金の安全線(月商◯か月分)が数字で決まっている
- 3か月先までの簡易資金繰り表を毎月更新している
- 損益分岐点売上を即答できる
- 商品・事業別の粗利率を把握し、戦略判断に使っている
- 投資の判断基準(戦略整合・回収期間・上限・安全線)がある
- 借入枠・公的金融を把握し、金融機関と平時から接点がある
- 月次で見る数字が5つに絞られ、会議で共有されている