割れたコップは元にもどらない。混ざったミルクコーヒーは分かれない。 そのカギは「エントロピー(乱雑さ)」が増え続けること。 じつはそれが、私たちの感じる「時間」という向きを生んでいるのかもしれないんだ。
「動画を逆再生すると、すぐ“変だ”と気づくよね。 割れたコップが元どおりになったり、けむりが吸い込まれたり…。 でもミクロの物理法則は、過去と未来で本当は対等なんだ。なのに、なぜ向きを感じるんだろう?」
世界は、いつも“片方向”にしか進まないことであふれている。
ミルクを入れると自然に混ざって均一になる。でも、混ざったコーヒーがひとりでに分かれることは絶対にない。
コップは落ちれば割れる。でも、破片がひとりでに集まって元のコップにもどることはない。
氷はぬるい部屋で水になる。水がひとりでに氷にもどることはない(冷凍庫の力を借りなければ)。
エントロピーとは、ざっくり言うと「乱雑さ・ちらかり具合の目安」。 自然はいつも、エントロピーが大きい(=散らかった)方へ進んでいく。
なぜ散らかる方へ? じつは“確率”の問題なんだ。
きれいに分かれている・整列している並び方は、ほんのわずかしかない。 (例:トランプが順番どおり、机がきれい)
バラバラ・混ざった並び方は、けた違いにたくさんある。 だから、でたらめにかき混ぜればほぼ確実に“散らかった方”になる。
全体(外と関わらない“閉じた世界”)で見ると、エントロピーは増えることはあっても、減らない。
熱い所と冷たい所が分かれている(整然)
熱が移って、差がなくなっていく
全体が同じ温度に(均一・平衡)。もう戻らない
粒子1個の運動の法則は、過去向きでも未来向きでも同じように成り立つ。 そこには「時間の向き」はない。
たくさんの粒子が集まると、必ずエントロピーが増える向きがある。 その「増える向き」を、私たちは“未来”と呼んでいる。
「つまり――時間が流れているのではなく、 “エントロピーが増えていく向き”を、ぼくらが“時間”と呼んでいるのかもしれない! 過去(散らかっていない)と未来(散らかっている)を区別できるのは、エントロピーのおかげなんだ。」
※量子の世界では、相互作用で量子もつれが広がり、情報が混ざり合って“元に戻せなく”なります。 この「もつれの拡散」も、エントロピー増大=時間の矢の正体のひとつと考えられています。
エントロピーがずっと増え続けられるのは、宇宙の始まり(ビッグバン)が、とても低いエントロピー=とても整った状態 だったから。坂の上にボールがあれば転がり続けられるように、宇宙は“整った”出発点から、ずっと散らかり続けている。
では、なぜ始まりはそんなに整っていたのか? ―― これは現代物理学でも未解明の大問題。 宇宙が最初シンプルで対称的だったこととも、深くつながっていると考えられている。
エントロピーがずっと増え続けると、いつか宇宙はどうなる?
星・銀河・温度差があり、変化に満ちている
星が燃えつき、差がならされていく
すべてが均一・平衡に。変化が起きなくなる
割れたコップが戻らないのも、私たちが歳をとるのも、ぜんぶエントロピーが増え続けるから。 過去と未来を分け、「時間」という向きを生んでいるのは、このエントロピーの矢かもしれない。 ――時間とは、宇宙が“整い”から“散らかり”へ進む、その物語そのものなんだ。